宇宙からのゾンビ(下巻)

ショートショート

これまでのお話はこちらから→  「宇宙からのゾンビ(上巻)」

「宇宙からのゾンビ(中の一巻)」

「宇宙からのゾンビ(中の二巻)」

某国!?

俺達がヘリに乗り込むと素早い動作で残りの隊員が乗り込みあっという間にヘリは離陸した

水平飛行に入るとさっきのリーダーらしき男はしきりと誰かと連絡を取っているようだ

その間に医療担当らしい隊員が俺と静香の指先にパルスメーターを取り付けた

ピッという音が鳴ってパルスメーターの数字を見ると俺の体温や血圧は正常だった

静香の様子を見ていた隊員がその数字を俺に見せた

静香の体温は38.8度になっていた

隊員は素早く医療キットのようなものを開くと注射器を用意した

俺の方へ「解熱剤を注射していいか? 」という視線を向けたので俺は頷いた

消毒から注射まで一切の躊躇なく静香が痛いと言う間も与えず終わった

リーダーらしき男は10分ほどしてやっと俺達の方に向き直った

「私はアメリカ海軍カーク少佐です

早速ですが質問してもいいですか? 」

俺はコクリと頷いた

「名前を教えて下さい」

「俺は志村拓哉、この子は静香」

「兄妹ですか? 」

「違う! 」と二人同時に叫んだ

「うちは不動静香や」

静香の名字が不動だったことを初めて知った

俺のことをシムタクと笑ったが静香もあのママタレと一文字違いじゃないか、きっと小さいときはイジられたに違いないと同情した

「じゃあ、どういう関係ですか? 」

と尋ねられてこれまでの経緯を話した

全てを話し終えるとたった二日でよくこんな体験をしたなと思いぐったりした

「良く無事で脱出できましたね」

とカーク少佐は感心したように言い

「しかしなぜ二人はゾンビにならなかったんでしょうか? 」

と不思議そうに呟いた

そこで俺は自分なりに考えたことを伝えた

「俺達二人は冷凍倉庫や隔離室という密室にいた

冷凍倉庫は外気で室温が上がらないように中の空気を循環させて冷却する構造

そして病院の隔離室も空気を何重にもろ過して直接外気が入らない

更に俺達二人が外に出たのは霧が無くなってから

だから隕石が巻き起こした霧に二人とも触れなかった

あの霧に触れた人間は死ぬかゾンビになるんじゃないかと思う」

カーク少佐は頷きながら

「その可能性が高いですね」

と言って考え込んだ

「ところでなんで自衛隊じゃなくアメリカ軍が助けに来たんですか? 」

と疑問に思っていたことを俺は尋ねた

カーク少佐は首を振りながら

「今回の隕石は不運なことに東京に落ちました

日本は内閣、国会、防衛省全ての機能が東京にあります

残念ながら総理大臣や防衛大臣、国会議員もいなくなったので各地の自衛隊に誰も出動命令を下せないのです

そこで日米安保条約に基づきアメリカ軍が出動し自衛隊はその指揮下に入りました」

と淡々と答えた

日本のシステムはそんなにも脆弱なのかと落胆しながら助けに来てくれたアメリカ軍に感謝した

「それともう一つ

高速道路に乗る前に通った国道には多くの死体があったがゾンビになるより無傷のまま亡くなっている人のほうが多いような印象を受けた

もしかしたら体力や病気など個体差で凶暴化するかどうか決まるのかも知れない」

と俺なりの分析を付け加えた

「なるほど貴重な情報ありがとう

実は我々アメリカ海軍の厚木基地が霧に覆われて同じような事態になりました

その時の報告でも凶暴化した人間と突然死した人間の2つに別れたようです」

「厚木は私が育った町でした

友達や知り合いも一杯いました」

表情は完全防護服に隠れてわからないがカーク少佐の沈痛な気持ちが伝わった

静香は解熱剤が効き始めたのか俺に寄りかかって寝ている

「拓哉さんは信用できる人です

そしてこの困難を乗り越えた貴重な人です

これから私達は助け合わなければいけないと思います」

「そうでもないけど」と俺が照れていると

カーク少佐は低い声で話し始めた

「嘘をつきたくないので私が知っていることを正直に話します

これから話すことは機密事項です

家族にも絶対に話さないでください」

と念を押された

母子家庭に育って俺の大学卒業と同時に母親が亡くなった俺には家族も親戚もいないけどと思いながら頷いた

「今回の隕石はNASAが把握していました

隕石は南太平洋上に落下するがほとんどは大気圏で燃え尽きてしまうという予測でした

しかし実際は東京湾に落ちました」

隕石の正体

「エッ、何で? 」

と言う俺を制してカーク少佐はゆっくりと言葉を続けた

「大気圏の外で人工衛星に当たったんです

人工衛星に当たって隕石は砕け散りましたが、人工衛星は弾き飛ばされて大気圏に突入しました

その人工衛星は・・・某国が秘密裏に打ち上げたものでした

普通その手の人工衛星は情報収集のためのスパイ衛星がほとんどです」

「でも今回の人工衛星はスパイ衛星ではなく、

宇宙空間で化学兵器又は生物兵器を実験するためのものではないかとNASAと国防総省は推測しています」

「ということは? 」

と俺が先を促すと

「今回東京湾に落下した隕石と言っていたものはその某国の人工衛星

そしてその中の化学兵器又は生物兵器が水蒸気とともに霧となって拡散したと考えています」

とカーク少佐は答えた

「じゃあ、みんなが死んだのはその化学兵器か生物兵器のせいなのか? 」

俺は怒りに震えた

「霧となって一瞬で首都を消滅させることは某国も想定してなかったでしょうが

結果的にはそうなります」

カーク少佐からも悔しそうな声が聞こえた

「実は我々は救援の任務で霧の中に入ったわけではありません

某国が証拠隠滅のため動き出したという情報があったので警戒にあたっていたのです」

「そうだったんですね

やっぱり俺達は運が良かったんだ」

と言って少しずつ明るくなった窓の外を見た

「見ろ、富士山が見えるぞ」

と静香を起こすと

並行して飛行するもう一機のヘリの向こうに朝日に反射する富士山が見えた

「そんなんで起こすな! 」

と怒る静香に呆れながら富士山がこんなに綺麗だと思ったことはないと眺めた

その時目を開けていられないほどの閃光が走った

並行して飛行していたヘリがオレンジ色の炎に包まれて爆発した

爆風で乗っているヘリが激しく揺れはじめた

前方の操舵室から

「メーデー・メーデー・メーデー」の絶叫が聞こえる

「ホールドオン」とカーク少佐が命令した

俺は静香とシートベルトをしっかりと握った

静香も俺にしがみついている

一秒も経たないうちに「ロケット・ランチャー」という大声と同時にヘリは左下に急降下した

ついさっきまでヘリがいたところをなにかの物体が高速で通過したのが見えた

あまりにも急激な動きのせいかヘリの機体からギーギーという金属同士がぶつかる音が聞こえる

大音量のアラーム音が鳴り始め今度は機首を上にして旋回し始めた

もうどちらが上でどちらがしたかわからなくなった時、バリバリという何かをなぎ倒す音を立てながらとんでもない衝撃が全身に伝わった

二人の隊員が空中を飛んでいくのが見えた、隣のカーク少佐も見えない

俺はかろうじて静香とシートベルトをつかんでいる

そしてゆっくりと眼の前が暗くなった

「宇宙からのゾンビ α」 完

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