これまでのお話はこちらから→ 「宇宙からのゾンビ(上巻)」
脱出
「うちら西に向かっとるんやろ? 」
「そうだ、断言はできないが霧が覆った地域が危ないと思うから西に向かう」
「それやったら、高速に乗ったらええんちゃん? 」
「ホンマや、それがええがな! 」
俺は感心して思わず関西弁になった
「何であんたが関西弁になんねん! 」
と少女がすかさずツッコミを入れた
「高速に乗れば市街地を通らず最短距離で行ける
その分ゾンビに会う確率も減るはずだ
この車には当然ETCが付いてるよな? 」
「付いてる、たまに大阪の実家まで帰っとったからな
そや、大阪まで帰ろ」
と言ってナビを操作しルートを検索した
一番近い高速道路は東名高速で厚木南ICから乗れる
「あんた、スマホ持ってるか? 」
俺は胸ポケットを探った
「無い、スマホが無い! 」
あの時か? 、少女を助けるためゾンビに体当たりしたあの時衝撃で胸ポケットのスマホが落ちたしか考えられない
「さっきゾンビに体当たりした時スマホを落とした
お前は持ってないのか? 」
「うちもあの時首から下げとったスマホがどっかいってもうた
最悪や、おばあちゃんに連絡取れへん
せっかくコンビニでモバイルバッテリーをパクって連絡取れると思っとったのに」
厚木南ICまで30km、ナビは国道1号を選んだ
やはり国道に入るととんでもない数の車が乗り捨てられていた
そして正常だった人かそれともゾンビなのかわからない死体が至るところに転がっていた
少女の顔は正面を見ていたが視線は下を向いたままだった
途中トラックやバスなど大型車が道を塞いだ箇所もあり反対車線を走ったり迂回をしてなんとか進んだ
この国道沿いは昨日までは車や人通りが絶えない場所だった
それが今は動くものがいない
たまに犬や猫がうろついているが動物はゾンビ化してないようだ
「日が暮れる前に高速に乗りたいな」
と言うと
「高速のサービスエリアでトイレ行きたいわ」
と少女が言った
そういえば起きてからトイレに行ってなかった
気が付くと無性に行きたくなって車のスピードを上げた
厚木南ICの入口にたどり着くと三角コーンがいくつか置いてあって進入禁止になっていた
多分隕石落下直後の停電か濃霧のせいで通行止めの判断がされたのだろう
素早く降りて三角コーンを移動させ、進入路を上った
料金所のゲートに着いたが人影はない
低速で恐る恐るETCのゲートに近づくと
反応した、ポールがサッと上がって通行できた
「ラッキー! 」
二人で喜んで高速道路の本線に進むとどこにも車の姿がなかった
国道では至るところに車が取り残されていたが高速道路は早めに通行止めになったので車が侵入できなかったようだ
初めてテスラで時速100km以上のスピードで走れた
あっという間に一番近い厚木パーキングエリアが見えてきた
駐車場に入るとやっぱり車が全然停まってない
それでも慎重にトイレの前に車を横付けした
「トイレは襲われたときに逃げ場所がないな
何か武器になるものがないか? 」
と外を見回していると少女がモニターを操作した
「確かサンジがチャカをダッシュボードに隠していたような」
と言いながらダッシュボードに手を入れて上を探ると
ガムテープで貼り付けられた拳銃が出てきた
「あんた、使い方知ってるか?
ぶっ放すときはここのセーフティーレバーを下げてから引き金引くんやで
それから撃った反動で銃身が跳ね上がるから足元狙って撃たんとあかんで」
なんで子供が拳銃の打ち方知ってるんだと思いながら受け取った
拳銃を握りしめ俺が先に降りて女子トイレの中に入った
全てのドアを確認して少女を呼び寄せた
「表で待ってるから、何かあったら声を掛けろ」
と言って外に出た
「覗くなよ! 」
「誰が覗くか! 」
少女は自分の恐怖心を隠すように軽口を叩いて中に入っていった
用が済んだ少女に銃を渡してトイレに駆け込んだ
「大きい方だから時間が掛かる」
と叫ぶと
「そんな報告いらんわ! 」
と少女が返した
久し振りのウォシュレットに感動を覚えながらズボンを上げると
「ウワッ、早よ来て」の声
急いで外に出ると
「見てみ、あそこにホットドッグあるで、アイスもある」
と少女が嬉しそうに飛び跳ねている
飲食店が並ぶエリアに行くと非常灯の灯りだけで照明は点いてない
薄暗い店内を覗くと人影はない
自動ドアの前に立ったが反応しない、内側からロックが掛けられているようだ
試しにテイクアウト用の窓に手を掛けたら、開いた
「俺達ツイてるな」と言いながら
手前にあるホットドッグとフライドポテトをかき寄せて少女に渡した
更に奥のハンバーガーに右手を伸ばした時
ガッと腕を掴まれた
暗闇からゾンビが大きな口を開けて俺の首筋を狙っている
必死に身体を引っ張ったが猛獣のような力で抑え込まれる
もうだめだと思った瞬間
パーンと乾いた轟音が耳元を通り過ぎた
同時に窓のガラスが砕け散り中の電子レンジが火を吹いた
その音と光に反応したのかゾンビの力が少し緩んだ
その隙に思いっきり腕を引っ張り後ろに倒れた
そのまま少女の拳銃を奪い取り無我夢中でゾンビに向かって撃ち込んだ
とんでもない反動で撃つたびに手首が持っていかれそうだった
ゾンビの姿は見えなくなった
銃弾が当たったのか確かめるより逃げる方を優先した
車に乗り込み出口に向かった
しかし本線には戻らなかった
駐車場の一番端にある充電ステーションに止まった
「どうしたん? 大阪にいかんの? 」
「充電量が残り少ない、次の充電ステーションまで持たんかもしれん
ここで満タンに充電していこう」
「そやけどさっきの音でゾンビが集まってくるかもしれんで? 」
と少女が初めて怯えた声で訊いた
「少し様子を見てゾンビが集まってきたら逃げよう」
そう言って30分、どんどん暗くなる周囲を監視し続けた
どうやらゾンビは集まってこない、さっきのゾンビも追っては来ない
そう確信して充電を開始した
シムタクのくせに
充電を待つ間に少女の名前を知らないのに気が付いた
「お前、名前は? 」
「・・・」
「名無しか? 」
「静香」
小さな声で少女が答えた
「はあ〜、静香?
名前と性格が全然合ってないぞ」
俺は腹を抱えながら笑った
「みんなそう言うけど、本当は物静かな中1の乙女やで」
内心中1にしては小柄だなと思いながら質問を続けた
「何の病気で入院しとった? 」
「小児性白血病や、オトンの転勤で横浜に引っ越してからなったんや
やっぱりうちには横浜みたいな上品な空気が合わへんかったんやな」
ヤクザにも転勤があるということと空気が合わないから白血病になるという点に違和感を覚えながらも可哀想にと思った
「あんたの名前は? 」
「・・・、拓哉」
「拓哉? まさかキムタクから取ったんちゃうやろな? 」
「ああ、お袋がキムタクのファンで男の子だったら絶対拓哉にすると決めてたらしい
名字が志村だから、学生時代はシムタクってバカにされた」
そう言うと静香は頭を振って爆笑した
「シムタクってオモロすぎやろ? 」
その他静香の治療は骨髄移植のドナーが見つかって1ヶ月前に手術が終わったこと
その後感染症を防ぐため隔離室に入って後2週間で出られる予定だったこと
担当の看護師がゾンビに襲われる直前隔離室のロックを解除して逃がしてくれたことなど
そんな話をしながら充電完了を待っていると睡魔が襲ってきた
静香も同じらしくいつしか寝息が聞こえてきた
その寝息に誘われるように俺も眠りに落ちた
モニターの点滅で目を覚ました
充電完了のメッセージが表示されている
「静香、出発するぞ」
と後部座席に声を掛けたが返事がない
後ろを振り返ると静香が汗をかいてうなされている
額を触るとはっきり分かるほど熱い
白血病が再発したのかそれとも他の症状なのかはわからないが急いで診察を受ける必要があるのは分かる
「ともかく急いで大阪に向かおう」
一人で決心し車を発進させた
どのくらい走らせただろう、神奈川を過ぎて静岡に入る手前で後ろからか細い声が聞こえた
「もしかしたら、もしかしたら、うちゾンビになるかもしれん
そん時はうちを撃ってな
うち、拓哉を殺したくないもん」
「バカ言うな、きっと俺が静香を助ける
安心しろ」
「フフ、シムタクのくせに」
と静香は弱く笑ってまた目を閉じた
静岡に入って昼間だったら富士山が綺麗に見える場所に差し掛かったところで
目の前の道路が突然明るくなった
その後眩しいくらいの光が前方から降り注ぎ同時に爆音が聞こえた
急ブレーキを踏んで車を止めた
ゾンビか?救援隊か?と判断がつかずじっと見ていると
光の中から五、六人の影が扇形に広がって車を囲んだ
車のヘッドライトに写った姿は化学テロ事件のときにニュースで見た完全防護服だった
ただしその手には小銃が握られていた
中央の一人が手招きで車の外に出るように促している
一瞬迷ったが静香を病院に運ぶには指示に従う他ないと判断した
ゆっくりとドアを開け外に出た
出た途端
「フリーズ」と言う緊張した声が届いた
何で英語? と戸惑っていると
「ゆっくり手を上げて」
中央の人間からちょっと違和感がある日本語が聞こえた
ゆっくり手を上げて正面を向くと
「あなた一人ですか? 」
と問われて
「いや、中に女の子がいる」
と答えた
その瞬間全体の緊張感が少し解けた気がした
ちゃんと受け答えをしたので俺がゾンビではないと確信できたようだ
「我々はアメリカ軍です、あなたは無事ですか? 」
やっと救援部隊が来てくれたと心の底から嬉しかった
「俺は無事だが、女の子は発熱している」
と伝えると再び緊張が走った
その緊張を感じて俺は続けて言った
「女の子は白血病なんだ、その発熱だ」
「白血病? 」
中央のリーダーらしき男はその言葉の意味を探っているようだったので
「血液の病気だ、骨髄移植で治る」
と言うと
「アイ シー(分かった)」
と英語で返した
後部ドアを開けると静香は目を覚ましていた
「静香、救援隊だ」と声を掛けると安心したように頷いた
リーダーらしき男はその様子を見て安心したようだ
小銃を持った周りの人間に指示して周囲の警戒にあたらせた
俺は静香を抱きかかえて外に出した
リーダーらしき男が手招きすると眩しい光の方に進むと大型のヘリが高速道路の真ん中に止まっていた
俺はヘリに進みながら
「ゾンビは音に反応する、こんな大きい音を出したらゾンビが集まってくる」
と大声で言うと
「ゾンビ?
なるほど...ゾンビですね」
と納得したように頷いた
続きはこちらから→「宇宙からのゾンビ(下巻)」
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